リモートワーカー紹介

【東京】細く長く、そして強く! 子どもがいても妊娠中でも私は働く

妊娠・出産後も働き続けたい。これは多くの女性が望むことです。ブランクがあると仕事復帰が難しいというのも理由のひとつでしょう。
このようななか、3年間の専業主婦生活を経て、フリーランス編集者として仕事復帰した酒井真由美(仮)さんを取材しました。一男一女を育てつつ、現在妊娠9ヵ月。大きなおなかで家庭と仕事をバランスよく楽しむ姿は、とてもイキイキとしています。

 

離婚危機のなか、子ども2人を抱えながら16万字を1ヵ月で執筆。

酒井さんは自宅にて、医療サイトに掲載する記事のリライト、ワーキングマザー向けコラムの執筆を中心に仕事をしています。以前は紙媒体の編集やウェブサイトのディレクションなども手掛けていましたが、第三子妊娠中のため今はお休み中。家庭の状況に合わせて仕事量を調整できるのは、フリーランスのリモートワーカーならではです。

ー以前からずっと編集の仕事をされていたのですか?

酒井さん(以下敬称略):もともと文章を書くのが好きで、中学時代は友人とミニコミ誌をつくっていたほどです。とは言っても、コンビニエンスストアで原稿をコピーしてホッチキスで留めて仲間数人で楽しむ程度でしたけどね。自然とそういう仕事に就きたいと思い、夜間の大学に通いながら昼間は出版社でアルバイトをしていました。
卒業してからも、出版社や編集プロダクション、広告代理店などを渡り歩き、紙媒体やデジタルコンテンツの編集や制作の仕事をしていました。会社や雇用形態はバラバラでしたが、この分野以外で働こうとは思いませんでしたね。

ー編集職が天職なのですね。それなのに、なぜ専業主婦になったのでしょう?

酒井:27歳のとき、広告代理店に転職してすぐ妊娠が発覚しました。でもそのまま仕事を続け、会社からも「子育てしながら働いてほしい」と言われていたんです。
でも長男を出産後、「契約更新の件で話がある」と連絡があって出社すると、目の前には退職願が……。仕方なく印鑑を押して、退職することになりました。

ー今問題のマタハラでしょうか。家庭に入るのはつらくなかったですか?

酒井:それが、意外と楽しくて! 高校1年生から3年生まで週5日アルバイトをしていて、大学時代は昼間に仕事、社会人になってからは休日出勤や残業続きと、10年以上走り続けてきました。だから、子どもとゆったりとした時間を過ごせることが本当に幸せでしたね。自分が3姉妹ということもあってきょうだいをつくってあげたくなり、3年後には長女も誕生しました。
仕事復帰も頭の片隅にありましたが、子どもがいると細切れの時間しかないし、長男が幼稚園に入園しても0歳の長女はまだまだ手がかかります。働くなんて無理だと思い、ママライフを満喫していました。

ーそんなとき、生活を根底から揺るがす大事件があったそうで……

酒井:そう、夫との間に深刻なトラブルがあり、離婚寸前になったんです。子どもたちをどう養おうかと、目の前が真っ暗になりましたよ。一刻も早く自活しなくちゃと生命保険の外交員をやろうとしていたまさにそのとき、かつての仕事仲間からライティングの仕事が舞い込んできたんです。

ー久しぶりのお仕事ですね。どんな案件でしたか?

酒井:恋愛ゲームのシナリオの執筆です。1話あたり5000字を32話分で、納期は1ヶ月。1日5000字以上書かないと終わらない計算です。正直、不安はありました。長男は昼過ぎには幼稚園から帰ってくるし、長女は夜泣きもあって夜間に集中して作業することもできません。一時保育はいつもいっぱいで、ほとんど使えませんでした。でも、とにかく経済力をつけたいというモチベーションのほうがはるかに強く、1日も遅れずに納品したんです。
そのとき気づきました、「子どもがいても仕事はできる!」って。この経験は、今でも大きな自信になっています。

ーその後、夫婦関係は修復できたのでしょうか?

酒井:何度も何度も話し合いました。私も家計を支える必要が出てきたため、仕事も家事も育児も2人でシェアすることを条件にして離婚を回避しました。
今では、仕事や子どものことはもちろん、気になったニュースからくだらない話題まで何でも話せる仲です。夫も編集者のため、仕事の進め方やギャラの交渉など、同業者としてアドバイスをもらうこともあります。

ー「雨降って地固まる」でしょうか。親友であり戦友のような、すてきなご夫婦ですね!

 

夫もリモートワーカーに転身。理想のワークライフバランスを手に入れた

ーご主人もフリーランス編集者になり、夫婦でリモートワークを実践しているそうですね

酒井:夫の前の勤務先は終電帰りが当たり前で、1ヵ月間休みがないこともありました。なんとか時間をやりくりして乗り切っていたのですが、このままでいいのかと2人で話し合ったんです。
子どもが「パパ、ママ」と頼ってくる時期なんて、ほんのわずかですよね。そんな貴重な時間を仕事ばかりに費やしていたらもったいない。父親不在が当たり前で、成長した子どもに邪険に扱われるなんて、さみしいじゃないですか。
確かに、フリーランスになれば収入は不安定になります。でも、お金は取り戻せても、時間は取り戻せません。私の仕事が軌道に乗ってきたこともあり、夫も会社を辞めてフリーランスになりました。

ー夫婦ともにリモートワーカーだと、仕事と家庭のバランスが取りやすいイメージがあります

酒井:それはありますね。私は基本的に在宅ですし、夫も週に数回の打ち合わせや取材以外は家で仕事をしています。通勤や身支度の時間が仕事にあてられるのは大きいです。夕飯も家族4人揃って食べていて、たまに夫がいないと長男が「パパは?」と心配するくらい。少し前まではいないのが当たり前だったのがうそのようです。
以前は子育てで孤立感を覚えることもありましたが、今は「夫婦2人で育てている」という実感があり、育児を楽しめています。

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ー日中、お子さん2人は誰がみているのですか?

酒井:9時から17時まで、家から徒歩5分の保育園に預けています。通勤時間がないので、利用時間が最小限で済むのはありがたいですね。基本的に夫が送り迎えをしています。

ー家事の分担もしっかりできていそうですね

酒井:それが、なかなか難しかったです。最初のうちは言わないと何もやらないのでイライラしていました。なので、まずは家事をすべてリストアップし、さらに「朝食準備10~20分」「洗濯物を干す 10分」「娘の着替え 3分」など、所要時間まで測ってエクセルで表を作成。徹底的に“見える化”したんです。これを見せて「どれをやる?」と夫に選んでもらいました。自分で選ぶことで当事者意識が生まれるし、所要時間がわかるから不公平感もありません。今では分担でもめることはないですね。こんなことしなくてもやってほしかった、というのが本音ですが(笑)。

 

家庭に軸足を置きつつ、プロとして仕事は妥協しない

ーもうすぐ3人目が生まれますね。お仕事は続けられますか?

酒井:もちろんです。細く長く働き“続けられる”のが、リモートワークの利点ですし。実際に3年のブランクを経験しているので、完全に仕事から離れてしまうデメリットは肌で感じています。これからも、家庭に軸足を置きつつ仕事を続け、子どもの成長とともに仕事を増やしていくつもりです。出産前のように休日や夜も働く生活は、子どもが大きくなってからでも遅くないと考えています。

ー仕事をしながら、お子さんとの時間を大事にできる。まさに理想です。

酒井:先日長男が、珍しく登園を拒否しました。何か嫌なことがあったのかもしれないと思い、その日は休ませたんです。仕事は、次の日に集中して2日分やればいいですから。1日一緒に過ごし、翌日は何事もなかったかのように登園して安心しました。
通勤が必要な仕事だったら、そんな些細なことでは休めません。でも大人にとっての“そんなこと”が、実は子どもからの重大なSOSかもしれないですよね。仕事時間を調整できるから、子どものメンタル面もケアできる時間と心の余裕をつくり出せます。

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ー自由が効く分、自己管理が大切になると思います。

酒井:フリーランスに気楽なイメージを持っている人もいますが、実は会社員以上に自律心が必要です。私の仕事のポリシーは、納期を絶対に守ること。会社員として編集をしていたとき、いつも締め切りを守らないフリーランスライターがいて、大変な思いをしました。その分野に精通しているライターがほかにいなくて仕方なくお願いしていたのですが、もし同等のスキルを持った人が見つかれば、即その人にお願いしますよね。スキルや実績にあぐらをかいていては、生き残れない世界です。

ー耳が痛いですね(笑)。そのほかに心がけていることはありますか?

酒井:外の世界と積極的につながることです。元同僚が仕事を紹介してくれたりと、この職種は人とのつながりが要。家に引きこもりすぎないようにしています。
クライアントとは電話、メール、メッセンジャーなどで連絡を取っていますが、可能であれば一度は直接会うようにしています。やっぱり、声や文字だけのコミュニケーションだと限界がありますよね。電話では怖そうな印象だった女性が、会ってみたらキビキビしたかわいらしい人だった、なんてことも実際にありました。リモートワークだからこそ、人の関わりを大切にしたいと思っています。

ーリモートワークのデメリットがあれば教えてください

酒井:場合によっては、家族がいる時間に仕事をせざるを得ないことです。5歳の長男と2歳の次女を遊ばせている間にパソコンに向かうこともあります。でも大声で騒いだりケンカが始まったりすると、ついイライラしてしまったり……。
時間に融通が効く半面、つい家庭との線引きがあいまいになりがちですね。スケジュールの調整は、今後の課題です。

ーありがとうございます。「お金は取り戻せても、時間は取り戻せない」という言葉が胸に刺さりました。
一部のメディアは「子育てのために家庭に入ると○億円の損失」などと煽り、子どもがいても独身時代と同じように働くことを礼賛しています。しかし仕事のために子どもとの時間を多大に犠牲にすることは、お金では補填できない損失になりかねません。
お金と子どもとの時間とのバランスを考えたとき、リモートワークという道を選んで働き続けることは有効な手段のひとつ。明るく話す酒井さんの姿を見て、ますますこう思うようになりました。

この記事の著者:平田 志帆(Shiho Hirata)

コールセンター勤務や専業主婦を経て、33歳のときに医療系メーカーの専属ライターに転職。産休・育休を経て復職するも、家庭の事情により両立が困難になりフリーに。現在は仕事と育児をほどよく楽しんでいる。この経験からワークライフバランスや女性の働き方に関心を持ち、それをメインテーマに活動中。

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