社員一人にかかる費用の種類と増える要因を解説
「社員にかかる費用には、どんな種類があるのか」「費用を抑えたいが、どうすればよいのか」とお悩みの方は、多いのではないでしょうか? 新しい人材を雇うとなると、そのぶん人件費がかかるため、コストの悩みはつきものですよね。
そこで今回は、社員にかかる費用の特徴や、人件費が増えてしまう要因を解説します。 雇用時に費用をなるべく抑えたいとお思いの経営者様は、ぜひ最後までお読みください。
社員一人にかかる費用には何がある?
一人の社員にかかる費用には、主に“給与”や“社会保険料”などがあります。
ここからは、それぞれの費用を解説します。
費用①給与
社員を雇用するときに必要な費用として、まずは給与が挙げられます。 給与は基本給にプラスして、賞与や残業代も含まれるのが一般的です。
賞与は、企業が金額や支給の頻度を自由に決められます。 賞与の額は、基本給をベースに計算される“基本給連動型”を採用している企業がほとんどです。
ほかにも、業績によって支給額が変わる“業績連動型”と、企業の決算状況によって変わる“決算賞与型”があります。
続いて、残業代とは、労働基準法で定められた法定労働時間を超えて働いた場合に支払われる、割増賃金のことを指します。
労働基準法では、法定労働時間を“1日8時間以内、および1週間40時間以内”と定めており、それを超える場合、企業は残業代を支払わなければなりません。 その場合、毎月の給与から時給を計算し、その額から25~50%を割増した賃金の支払いが必要です。
参照元:厚生労働省
費用②社会保険料
“社会保険料”という言葉を聞く機会は多いですが、細かい種類についてはっきりとわかっていない方も多いのではないでしょうか。
社会保険料は被保険者の年齢や、企業から支払われている給与から標準報酬月額を設定する仕組みとなっており、それをもとに保険料が算出されます。
そもそも社会保険とは、病気や怪我などのリスクに備えるための保険制度のことです。 正社員が対象となる保険には、“健康保険”“介護保険”“厚生年金保険”“労災保険”“雇用保険”が存在します。 以下の表では、それぞれの保険の概要をまとめました。
社会保険の種類
社会保険の種類 | 概要 | 負担割合 |
健康保険 | 業務外の病気や怪我、それによる休業などの事態に備えるための保険 | 事業主と社員で50%ずつ負担 |
介護保険 | 要介護状態または要支援状態になったときのための保険(40歳から要加入) | 事業主と社員で50%ずつ負担 |
厚生年金保険 | 社員が65歳以上になったときや、障害になったとき、死亡したときに年金や一時金を支給してもらうための保険 | 事業主と社員で50%ずつ負担 |
労災保険 | 業務上の事由または通勤による負傷や障害、疫病、死亡に対する保険 | 事業主が100%負担 |
雇用保険 | 社員の失業時や継続的な雇用に困難が生じた場合、必要な給付を行うほか、社員が職業に関する教育訓練を受けた場合に必要な給付を行う保険 | 事業主と社員の双方が負担(負担割合は事業主のほうが大きい) |
社会保険料は、保険ごとに負担の割合が異なり、業種によっても変わります。 また、年齢によって加入できない保険もあるので、その点はしっかり確認しておきましょう。
費用③福利厚生費
福利厚生費とは、企業が社員に対して支払う給与とは別の報酬のことです。
たとえば、住宅手当や交通費などが該当し、社員やその家族の生活の満足度向上が目的となっています。
また、福利厚生費の種類は多岐に渡り、独自の内容を設けている企業も存在します。
以下では、代表的な福利厚生費を表にまとめました。
福利厚生費の主な種類
内容 | |
住宅手当 | 社員が個人で契約した賃貸住宅の家賃の一部や、住宅ローンなどの住宅費用を補助する目的で企業が負担する |
交通費 | 社員が出退勤する際にかかる電車代やバス代、ガソリン代を一定の限度額まで企業が支給する |
退職金 | 社員が安定した老後を迎えられるよう、退職にあたって企業から支払われるもので、一般的に“退職一時金制度”と“退職年金制度”に分類される |
健康診断 | 社員が健康診断や人間ドックを受けるための費用を、企業が負担する |
社員旅行 | 社員同士の親睦を深めたり、仕事のモチベーションを上げたりするために行われるもので、“旅行期間は4泊5日以内”“旅行参加者が全体の50%以上”“会社負担額が高額すぎない”の3つが福利厚生費の条件に含まれる |
退職金も福利厚生費に含まれますが、支払いの有無は企業によって自由に決められます。
ただし、倒産したり、社員が会社都合でリストラに見舞われたりした場合は、退職金を支払うのが一般的です。
退職金の額は企業によってさまざまですが、勤続年数が長く、役職が高い場合は金額が上がる傾向にあります。
費用④採用費
採用費には、主に求人サイトへの求人の掲載費や、採用サイトの制作費などが含まれます。 企業で活躍する人材を採用するためには、それだけコストをかけなければなりません。
就職白書2020によると、新卒社員一人あたりの平均採用コストは、2019年時点で93万6,000円かかることがわかりました。 また、中途社員一人あたりの平均採用コストは、2019年時点で103万3,000円となっており、新卒採用に比べて10万円ほど高くなります。
なお、就職白書2024では、2025年卒の採用活動に費やす総費用について、5,000人以上規模の企業の52.9%が、“2024年卒採用よりも増える見通し”と回答しています。
中途採用に関しては、企業で即戦力として働いてもらえる人材を求めているので、自社の条件にマッチした人材を見つけるのは至難の業です。 そのため、求人サイトでの募集が長期間になり、おのずと採用者一人あたりにかけるコストがかさんでしまいます。
参照元:就職白書2020
参照元:就職白書2024
費用⑤教育費
教育にかかる費用のことも、忘れてはなりません。 新卒の方を採用した場合、一からビジネスマナーやPCスキルを教育する必要があるため、教育費がかさんでしまいます。 また、中途採用の場合も社内独自のルールや、社内システムの使い方などの教育ないしは研修を行わなければなりません。
そのほかにも、場合によっては研修に使用する場所代や資料代、講師代がかかります。 教育への費用は、採用する人数によって変わるので、少なければそれだけ費用を抑えることができます。
社員一人にかかる費用が増える要因
社員にかかる費用が増えてしまう要因には、どういったものがあるのでしょうか? ここからは、3つの要因を解説します。
要因①最低賃金の引き上げ
最低賃金は年々引き上げられており、2023年度には全国平均1,004円へと変更されています。 そのため、企業が負担する人件費の費用は非常に大きくなりました。 最低賃金と聞くと、アルバイトやパートの方が浮かぶかもしれませんが、月給制の正社員においても最低賃金以上の時給が必要です。 社員の離職を防ぐためにも、現在の時給が最低賃金を下回っていないか、定期的に確認しましょう。
また、2023年4月には残業に加算する割増賃金率の改定も行われました。 今回の改定は、中小企業で60時間を超える時間外労働を行った場合のみが該当し、割増賃金率は25%以上から50%以上に引き上げられています。
参照元:厚生労働省
要因②慢性的な人手不足
慢性的な人手不足も、社員にかかる費用が増える要因の一つです。 人手不足の大きな要因は少子高齢化によるもので、出生率の増加がない限り雇用の減少は続く一方です。
帝国データバンクのデータでは、人手不足の企業の割合は、正社員の場合は51%、非正社員においては30.1%と回答されています。 人手不足の状況が続くと、社員一人ひとりの業務負担が増加し、労働基準法違反の発生リスクが高まったり、採用に関するコストがかさんだりします。 それらを未然に防ぐためにも、日頃から業務の効率化を図り、求人を募集する際は採用条件や方法の見直しを行いましょう。
参照元:帝国データバンク
要因③社会保険料の負担増加
社会保険料についても、企業側の負担が増加しています。
社会保険料は2022年10月に適用事業所が拡大され、2024年10月からは、従業員数51人以上の事業所も社会保険の加入対象となります。 2ヶ月を超える雇用の見込みがあり、週の所定労働時間が20時間以上などの条件に当てはまる方が対象で、パートやアルバイトの方の加入も必須です。
企業側の負担は増加してしまいますが、非正社員の方の保障が充実するため、パートやアルバイトの方にとってはメリットといえるでしょう。 適用事業所に該当するにもかかわらず、社会保険へ加入しない状態が続く場合は罰則があります。 以下は、それぞれの罰則の内容です。
【罰則の内容】
- 健康保険:6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金
- 厚生年金保険:6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金
- 労災保険:6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金
- 雇用保険:6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金
摘発された場合、最大2年までさかのぼって加入する必要があり、その期間の保険料も徴収されるので、そのようなことがないよう、企業として当然の義務は果たしましょう。
参照元:厚生労働省
社員一人にかかる費用を抑える方法
ここからは、社員一人にかかる支出を抑える方法を紹介します。
方法①給与体系を見直す
費用を抑える際、まず確認したいのは現在の給与体系です。 ただし、すでに雇用している社員の給与を下げるのはモチベーションの低下や離職につながるので、避けたい方法です。
給与体系を見直すおすすめの方法として、定期昇給から能力に応じた昇給に変更するというものがあります。 定期昇給は、企業側も管理や計算を行いやすいという利点が挙げられますが、人件費が毎年増加しつづけるという欠点も存在します。 能力に応じた昇給に変更することで、社員のモチベーションの増加へとつながり、一人ひとりにかかる費用を抑えることが可能です。 また、現在月額で支払っている住宅手当や、家族手当などの福利厚生費も、一時金としてまとめて支給することで、月々にかかる費用の大幅なカットが期待できます。
社員のモチベーション低下と離職を避けるために、あらゆる工夫を施しながらコストカットを実現させましょう。
方法②残業時間の管理を徹底する
残業時間を減らすことも、一人の社員にかかる費用を抑えることにつながります。 企業は、社員が残業したぶんの賃金を支払う義務があり、その費用は割増賃金として給与に上乗せされます。
つまり、社員が残業すればするほど費用がかさんでしまうため、なるべく残業時間が減るように、企業側も策を講じなければなりません。
多くの企業が設けている施策の一つに、ノー残業デーがあります。 ノー残業デーとは、定時での退社を促すもので、定時までに業務を終了させるのが目的です。 なかには、「定時までに終わらなかったぶんは、残業して済ませればよい」と考えている社員が存在するかもしれません。 そういった社員の考えを変えるためにも、ノー残業デーは有効な施策といえるでしょう。 また、残業代を減らせるだけでなく、業務効率の改善につながるのもメリットの一つです。
方法③業務を外注する
普段の業務を外部企業に外注するのも、費用を削減する方法としておすすめです。 業務を外注することで、以下の費用を削減できます。
【削減できる費用の種類】
- 社会保険料
- 福利厚生費
- 採用費
- 教育費
外部企業の社員は、基本的なスキルが身についているので、採用費や教育費は不要です。
また、自社で雇用するわけではないため、社会保険料や福利厚生費も支払わずに済みます。 一部の業務を繁忙期など必要なときにのみ外注できる点も、利点の一つです。 つまり、繁忙期だけ一部の業務を依頼するというかたちをとることで、利益が出やすい企業へと変化させることができます。
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社員一人にかかる費用は、工夫次第で抑えられる
本記事では、社員にかかる費用と、それらが増える要因を解説しました。 社員を雇用すると、給与や社会保険料など、さまざまな費用が必要になります。
また、優秀な人材を雇用するためには、採用にお金をかけなければなりません。 社員一人ひとりへの支出に頭を悩ませている企業は、給与体系を見直したり、残業時間を減らしたりすることで、その悩みをなくすことが可能です。
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