公開日 2026.09.25更新日 2026.09.25

間接部門のDXが進まない理由|ツールを入れる前にやること

「DXを進めろと言われたが、うちの間接部門で何をやればいいのか分からない」「ツールは入れたが、結局これまでのやり方が残っている」——このような状態にお悩みの経営者や経営企画、管理本部長の方は少なくありません。

多くの解説記事は「ツールを導入しましょう」「意識を変えましょう」といった一般論にとどまりますが、実際に間接部門のDXが進まない最大の原因は、ツール選定の失敗ではなく「推進する担当者の工数がないこと」にあります。

本記事では、まず定型業務を外に出して工数を作り、その工数でDXを進めるという順番をご紹介します。

間接部門のDXとは何を指すのか

  • 間接部門は、経理・人事・総務・法務・情報システムなど、企業活動を後方から支える部門
  • デジタル化は既存業務の置き換え、DXは業務プロセスそのものの作り直し
  • 経済産業省「DX支援ガイダンス」は、企業のデジタル活用を4つの段階に整理している

間接部門とは、経理・人事・総務・法務・情報システムなど、売上を直接生み出すのではなく企業活動を後方から支える部門を指します。

営業や製造といった直接部門と対をなす存在であり、企業活動全体をスムーズに進め、コストを最適化する役割を担っています。

一方で、間接部門は成果を定量的に評価しづらいという特有の事情も抱えています。

売上のような明確な指標がないため、経営環境が厳しくなると人員や予算の削減対象になりやすく、その結果としてDXに割ける余力そのものが失われがちです。

まずは、DXという言葉が指す範囲を確認しておきましょう。

デジタル化(置き換え)とDX(作り直し)の違い

紙の書類をPDFに変える、Excel管理をクラウドに載せる——これらは「デジタル化」であり、既存の業務をそのままデジタルに置き換える作業です。

一方でDXとは、その業務がなぜ存在するのか、本当に必要な工程は何かまで遡り、プロセスそのものを作り直すことを指します。

実務では前者だけで止まり、それを「DXした」と呼んでしまっているケースが少なくありません。

両者の違いを表で整理すると、次のようになります。

観点 デジタル化 DX
対象 既存業務の手段 業務プロセスそのもの
目的 電子化・効率化 変革・競争力強化
例 紙をPDF化する 承認フローそのものを見直す

この違いを理解しないまま進めると、ツールを入れ替えただけで「変わった気になる」状態に陥りやすいため、注意が必要です。

あわせて読みたい:プロセスそのものを作り直すこと

経済産業省の定義と支援ガイダンス

経済産業省「DX支援ガイダンス」(令和6年3月)は、企業のデジタル活用を4つの段階に整理しています。

同ガイダンスは、紙や手作業をデジタルに置き換えるデジタイゼーションと、業務プロセスをデジタル前提で見直すデジタライゼーションをあわせて「デジタル化」と位置づけ、DXに進むための重要なステップとして扱っています。

そのうえで、最終段階にあたる段階4を、業務レベルを超えてデジタル化によるビジネスモデルの変革や競争力強化に取り組み、企業の「トランスフォーメーション」を進めている状態と説明しています。

この段階の整理からも、DXがツール導入だけで完結するものではないことがわかります。

間接部門においても、システムを入れ替えることが目的化してしまうと、本来目指すべき「業務プロセスの変革」からは遠ざかってしまう点に留意が必要です。

間接部門のDXが進まない3つの理由

  • ①推進する担当者の工数が確保できない(DX推進が既存業務への上乗せになっている)
  • ②業務が標準化されておらず、ツールに載せられない(手順が担当者の頭の中にある)
  • ③導入後の運用・メンテナンスを担う人がいない(異動・退職で運用が止まる)

間接部門のDXがなかなか進まない背景には、共通する3つの壁があります。

上位記事の多くは「意識改革が必要」「人材が不足している」といった一般論で止まっていますが、実務レベルで詰まる原因を分解すると、次の3つに集約されます。

①推進する担当者の工数が確保できない

最大の要因は、DX推進が既存業務に上乗せする形で割り当てられることです。

日常業務で手一杯の間接部門の担当者に、ツールの選定・データ移行・社内への説明・定着支援までを任せても、着手する時間そのものがありません。

「DXが進まない」という状態の実態は、多くの場合「DXを進める人の時間がない」という単純な問題です。

例えば株式会社メルカリ様では、社員急増に伴い肥大化した経理処理や慶弔手続等の庶務雑務を外部化することで、正社員が本来のミッション(コア業務)に集中する組織文化を醸成しました。

人材やスキルの不足以前に、まず既存の定型雑務を外部へ切り出し、DX推進に着手できる時間を創出することが不可欠です。

・参照事例: https://cast-er.com/case/smes/mercari/

②業務が標準化されておらず、ツールに載せられない

手順が言語化されず、担当者の頭の中にしか存在しない業務は、そのままではツールに載せられません。

株式会社エイトレッド(ワークフロー総研)「バックオフィス業務におけるAI活用に関する実態調査」(2025年7月17日〜18日実施、バックオフィス業務に携わりDX推進を行っている方110名が回答、複数回答)では、現在のバックオフィス業務の課題として「特定の人しかわからない業務がある」が57.3%で最も多く挙がっています。

有効回答110名と小規模なサンプルではありますが、属人化が現場の実感として上位に来ていることがうかがえます。

属人化した業務にはツールもAIも載せられないという前提を、まず押さえておく必要があります。

ツールを導入する前に、業務の手順を言語化し、誰が見ても同じ手順で進められる状態にしておくことが欠かせません。

あわせて読みたい:属人化した業務にはツールもAIも載せられない

あわせて読みたい:業務の手順を言語化し、誰が見ても同じ手順で進められる状態

③導入後の運用・メンテナンスを担う人がいない

ツールは導入時の設定だけで終わりません。

法改正や業務内容の変化に合わせて、継続的な調整が必要になります。

担当者が異動や退職をすると運用が止まってしまい、結局もとの手作業に戻ってしまうケースも珍しくありません。

導入時にはうまく回っていた仕組みも、運用を引き継ぐ人がいなければ形骸化してしまいます。

誰が継続的に運用を見るのかを、導入前の段階で決めておくことが重要です。

特定の一人だけに運用が依存する体制では、属人化を再生産してしまいます。

例えば三井不動産株式会社様のオンラインアシスタントの導入事例では、営業Kintone運用やデータ処理の属人化が課題となっていましたが、アシスタントによるマニュアル作成サポートとデータ入力代行を導入したことで属人化を解消し、リモートワーク推進まで実現しました。

ツールの導入段階からマニュアル化と外部サポート体制を組み込んでおくことが、運用の形骸化を防ぐ強力な解決策となります。

あわせて読みたい:結局もとの手作業に戻ってしまうケース|AI導入はなぜ失敗するのか?現場でつまずく原因と回避のポイントを解説

ツールで解ける業務/解けない業務

  • 手順が明文化され、判断の余地が小さい業務はツールに載せやすい
  • 例外処理や社内外の調整、対外的な最終確認など、人の判断が残る業務もある
  • 切り分けずにすべてをツールへ寄せると、かえって現場の負担が増えることがある

間接部門の業務には、ツールで解決しやすいものと、そうでないものがあります。

両者を切り分けて考えることが、DXを成功させる前提になります。

まずは代表的な業務を、それぞれのタイプに分けて整理してみましょう。

ツールに載せやすい業務

手順が明文化され、入力形式が揃っていて、判断の余地が小さい業務は、ツールに載せやすい領域です。

経費精算、勤怠集計、稟議のワークフロー、請求書の発行などが該当します。

2018年版中小企業白書(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社が2017年12月に中小企業30,000社を対象に実施した調査、回収率13.8%、対象は常時雇用する従業員数が21名以上の中小企業)によると、クラウド会計を導入した企業では月次処理の人日削減割合が平均2.6割、クラウド勤怠管理を導入した企業でも同じく2.6割という結果が示されています。

調査時点が2017年12月であり、対象も一定規模以上の中小企業に限られる点には留意が必要です。

定型的で判断の余地が小さい業務ほど、ツール導入による効果が数字として表れやすいといえます。

あわせて読みたい:経費精算、勤怠集計、稟議のワークフロー、請求書の発行

人の判断が残る業務

一方で、例外処理や社内外の調整、対外的な最終確認、機密情報の取り扱い判断など、人の判断が必要な業務は残ります。

同じ2018年版中小企業白書の調査では、月次処理に要する人日が導入前後で「変わらなかった(削減が0割)、あるいは増加した(削減が0割未満)」企業が、クラウド会計を導入した企業で17%程度、クラウド勤怠管理を導入した企業で21%程度存在しています。

ツールを入れれば必ず業務が減るわけではない、という点も押さえておきましょう。

この領域まで無理にツールへ寄せようとすると、かえって現場の負担が増えてしまうことがあります。

ツールに載せやすい業務と、人の判断が残る業務の違い

観点 ツールに載せやすい業務 人の判断が残る業務
業務の性質 手順が明文化され、入力形式が揃っている 相手や状況に応じた解釈・調整が必要
判断の余地 小さい(ルールとして書き切れる) 大きい(都度の判断が入る)
代表例 経費精算/勤怠集計/稟議ワークフロー/請求書発行 例外処理/社内外の調整/対外的な最終確認/機密情報の取り扱い判断
進め方 ツール導入・自動化の対象として優先する まず手順書化して属人化を解き、判断の基準をそろえる
注意点 手順が揃っていないまま載せると定着しない 無理にツールへ寄せると、かえって現場の負担が増える

あわせて読みたい:AIに代替できない仕事とは?AI導入でも工数が減らない理由と「使いこなす外注」という解決策

DXの前にやること|工数を作ってから着手する

  • 転記・集計・一次対応といった定型業務を、先に外部へ渡す
  • 空いた時間を推進の工数に充て、その工数でDXを進める順番にする
  • 外部へ渡すための業務の棚卸しと手順書化が、そのままDXの前工程になる

ここまで見てきた3つの壁のうち、最も根本的なのは「工数がないこと」です。

ではどうすれば、DXを推進するための工数を作ることができるのでしょうか。

定型業務を外に出して、推進の工数を作る

転記・集計・一次対応といった定型業務を先に外部へ渡すと、担当者の時間が空きます。

その空いた時間でDXを進める、という順番が現実的です。

たとえば株式会社TVer様では、月末月初に発生する請求データの突合業務などに、営業部門が毎月20時間ほどの工数をかけていました。

業務の切り出しとあわせて、集めた情報を一度CSVファイルに集約してから取り込む手順に見直したことで、工数を約5時間削減しています。

営業活動に使える時間が増えたことで、商談数の増加にもつながりました。

こうした外部化は、システムの改修を待たずに着手できる点が特長です。

定型業務を外に出す仕組みとしては、月30時間から、秘書・事務・経理サポートなどをチームで受けられるCASTER BIZ assistantのようなオンラインアシスタントサービスも選択肢になります。

AIツールの選定や設定、プロンプト調整まで含めて任せたい場合は、CASTER NEO Assistantのようなサービスを利用する方法もあります。

業務の棚卸しと手順書化が、そのままDXの前工程になる

業務を外部へ渡すためには、まず業務を洗い出して手順書を作る必要があります。

この作業は、ツールに載せるための整理とほとんど同じ内容です。

つまり、外注のための準備が、そのままDXのための準備を兼ねることになり、二度手間にはなりません。

手順書化を通じて属人化を解消できれば、その先でツールに載せる判断もしやすくなります。

あわせて読みたい:業務を洗い出して手順書を作る

進め方の順番

  • 工数を作ったあとは、棚卸し→現状値の測定→対象の選定→小さく試す→定着の順で進める
  • とくに現状値の測定を飛ばすと、導入後に効果を説明できなくなる
  • ツール導入と業務の外部化では、効果が出るまでの時間差があることを前提に置く

工数を作ったあとは、どのような順番でDXを進めればよいのでしょうか。

5つのステップに沿って整理します。

①棚卸し ②現状値の測定 ③対象の選定 ④小さく試す ⑤定着

ステップ 内容
①棚卸し 業務内容と手順をすべて洗い出す
②現状値の測定 導入前の処理時間・件数を数値で記録する
③対象の選定 効果が見えやすい業務から選ぶ
④小さく試す 全社展開ではなく1業務・1部署から始める
⑤定着 運用ルールを整え、継続的に見直す

とくに②の現状値の測定を飛ばしてしまうと、導入後に「本当に効果が出たのか」を説明できなくなります。

多くの場合、効果を誰かに説明する場面が訪れます。

そのため、着手前の数値は忘れずに記録しておきましょう。

④で試した内容は、⑤の段階で運用ルールに落とし込み、担当が替わっても回るように定期的に見直せる状態にしておくことが、定着の分かれ目になります。

効果が出るまでの時間差を前提に置く

ツール導入によるDXは、要件定義から社内定着までに数ヶ月単位の期間を要することが少なくありません。

一方で、定型業務の外部化は既存手順の切り出しにより即効性を持って稼働させられます。

例えば株式会社TVer様では、営業メンバーがバックオフィス業務に費やしていた「月20時間」の作業(請求データ突合や資料作成)を迅速にオンラインアシスタント(CASTER BIZ assistant)へ切り出し、即座にコア業務へシフトさせました。

結果として商談数が増加し、売上倍増を達成しています。

・参照事例: 株式会社TVer様|オンラインアシスタントの導入事例

短期で効かせたい業務と、中期でじっくり作り直す業務を分けて計画することが現実的です。

まず外部化によって短期のうちに担当者の時間を空け、その時間を使ってツールの選定や定着を中期的に進める——この二段階のロードマップを前提に置くことで、DXの計画に無理がなくなります。

あわせて読みたい:【業務改善の進め方ロードマップ】失敗しない5ステップと成功させるための秘訣

中小企業でのDXの現実解

  • 全社一斉ではなく、効果が測りやすい1つの業務から始める
  • 着手前に現状値とKPIを決め、改善幅を説明できる状態にしておく
  • 小さく成果を積み重ねることが、結果的に全社展開への近道になる

大企業向けの事例は多く語られますが、中小企業ではどのように現実的にDXを進めればよいのでしょうか。

予算や人員が限られるなかで、無理のない進め方を考えてみましょう。

全社DXではなく、1業務から

2026年版中小企業白書(株式会社帝国データバンク「令和7年度中小企業の経営課題と事業活動に関する調査」、全体n=5,645)によると、AI活用に「取り組んだ」と回答した中小企業は30.3%で、「取り組んでいない」が69.7%を占めています。

デジタル技術の活用は、中小企業ではまだ一部にとどまっているのが実情といえます。

大きな計画を最初から立てるよりも、効果が測定しやすい1つの業務から始めるほうが、実際には続けやすいといえます。

人員に余裕のない中小企業ほど、最初の一歩でつまずくと後が続かなくなるため、小さく始めて成果を積み重ねることが、結果的に全社展開への近道になります。

効果測定はKPIとセットで

「DXをした」で終わらせないためには、何をどれだけ改善するのかという目標を、着手前に決めておくことが欠かせません。

間接部門では売上のような単一指標が使えないため、月次締めにかかる日数、1件あたりの処理時間、差し戻しや問い合わせの件数といった、業務量の増減に左右されにくい指標を選ぶと変化を追いやすくなります。

目標が数値で定まっていれば、経営陣や現場への説明にも説得力を持たせやすくなります。

KPIの具体的な置き方については、別記事で詳しく解説します。

まとめ|ツールの前に、時間を作る

本記事では、間接部門のDXが進まない理由と、その前にやるべきことを整理しました。

  • デジタル化とDXは異なるものである
  • DXが進まない理由は、工数・標準化・運用体制の3つに集約される
  • 業務にはツールで解ける領域と、人の判断が残る領域がある
  • 定型業務を先に外部へ出して工数を作ることが、結果的にDXの準備にもつながる

DXが進まないと感じたとき、まず確認すべきなのはツールの機能や価格ではなく、「推進する時間があるかどうか」です。

ツールを入れる前に、まず時間を作ること。

それが、間接部門のDXを着実に前に進める第一歩です。